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九八年度と言えば、次節で分析するように、前年度の超緊縮予算の強行によって、日本経済から「強い国」の面影が消え、一・五%のマイナス成長に落ち込んだ年である。
この頃から、日本の経済成長率は先進国の平均を下回り続けるようになった。
政府は、このGDPデフレーターの持続的下落は、日本で「デフレ」が進行しているからであり、景気上昇の最終年となった○七年になっても、日本はまだ「デフレ」から脱却出来たかどうかははっきりしていない、と言っていた。
このため政府は、「デフレ脱却宣言」の機を逸してしまった。
デフレが進行していると、販売価格の下落で企業収益が圧迫され、投資や雇用が抑えられて景気が一層悪くなり、それがまたデフレを更に進行させる恐れがある。
また多くの企業は自己資金以上に投資を行い、外部負債で生産・営業用設備や在庫をもっているので、デフレが続いて設備や在庫が値下がりすると、他方で負債の金額はそのままなので損失が発生する。
これも企業が投資や雇用を抑える原因となって、景気が一層悪くなり、その結果デフレが更に進む。
このようなデフレと景気の悪循環を「デフレースパイラル」と呼ぶ。
政府は、このような「デフレースパイラル」を起こさないようにするため、「デフレ」克服が最優先の政策課題だと言い続けていたのである。
超低金利政策が景気上昇期間中、最後まで続けられたのも、そのためである。
「デフレ」とは、「インフレ」とは。
そこで「デフレ」の意味をここで改めて確認し、GDPデフレーターの下落が本当にデフレの進行を意味したのかどうか、考えてみたい。
デフレとは、経済の一般物価水準が持続的に下落することであり、インフレとは経済の一般物価水準が持続的に上昇することである。
一般物価水準が持続的に下落したり、上昇したりする原因は、経済のマクロ的な需要と供給の関係で、供給超過(デフレの場合)、または需要超過(インフレの場合)が起こっているためである。
供給超過の時は販売価格の下落で企業収益が圧迫され、需要超過の時は販売価格の上昇で企業収益が膨らむ。
例外的に、賃金や輸入物価(企業部門の投入価格)の低下や上昇によって、一般物価(企業部門の産出価格)が下落したり上昇したりすることがある。
インフレの場合、これを「コストープッシューインフレーション」と呼んで、経済のマクロ的需給の逼迫によっておきる「ディマンドープルーインフレーション」と区別する。
しかし、コストープッシューインフレは長続きしない。
名目需要が変わらないのに供給価格が上がるため、実質需要が低下し、景気後退が起きるからである。
このようなインフレと景気後退の共存を「スタグフレーション」と呼ぶ。
これはマクロ経済政策によって需要を増やさない限り、景気後退が続いて結局はインフレが収まるので、長続きはしない。
逆に、賃金など企業部門の投入価格が下がって、一般物価水準が下がった場合はどうなるであろうか。
この時は、デフレ(一般物価水準の持続的下落)と企業部門の収益改善が共存するという珍しい現象が起きる。
一般物価水準の尺度は総需要デフレーター ○一年から○四年までの日本経済がまさにこのような状態にあった。
日本の現金給与総額(厚生労働省調べ)は、○一年から○四年まで、名目ペースで毎年下落している。
輸入物価は○一年から○三年まで下落し、○四年に上昇に転じ、○八年第3四半期まで上がり続けた。
しかし、企業部門の投入価格の中では、賃金のウェイトが圧倒的に高いから、○四年までの四年間に企業部門の総投入価格は下落していたと考えてよい。
企業部門の産出価格である一般物価を計る尺度は、近似的には全国消費者物価やGDPデフレーターが使われる。
しかし、全国消費者物価には、企業が投資や輸出に供給した商品の価格が入っていないので、正確には一般物価とは言い難い。
GDPデフレーターにも、一般物価水準としての欠陥がある。
GDPというのは「国内需要+輸出」(総需要)から輸入を差し引いた「国内需要+純輸出(輸出マイナス輸入)」である。
国内で生産、あるいは支出される付加価値の合計、つまりGDP(国内総生産)あるいはGDE(国内総支出)としては、それで正しい。
しかし、企業部門の総産出価格、あるいは企業部門に対する経済主体の総支出価格の指標としては、輸入デフレーターを差し引く前の総需要デフレーターが最適である。
○一年から○三年までの三年間は、最も適切な指標である総需要デフレーターで見ても、近似的な指標の全国消費者物価やGDPデフレーターで見ても、いずれも下落していた。
従って、一般物価水準の持続的下落、すなわち「デフレ」が進行していたという考え方に誤りはない。
しかし、このデフレは非常に特殊なデフレであった。
何故なら、企業部門の総投人価格(賃金と輸入物価の加重平均)もまた下落していたため、企業収益はデフレの下で○一年から回復していたからである。
これは「コストープルーデフレーション」とでも呼ぶべき特異な現象だ。
「コストープッシューインフレ」が企業収益を圧迫してインフレと景気後退の共存、すなわち「スタグフレーション」になるのとは対照的に、「コストープルーデフレ」は企業収益を回復させ、デフレと景気回復の共存をもたらした。
従って、このデフレが企業収益を圧迫して一層の景気後退を招き、更にデフレを深刻にして「デフレースパイラル」に陥る心配などは、初めから存在していなかったのである。
デフレ克服を最優先の政策目標に掲げていたのも、実は見当外れの政策態度であったと言えよう。
二〇〇四年にデフレは終わっていた 「コストープッシューインフレ」が長続きせず、普通の景気後退と物価下落に変わるように、「コストープルーデフレ」も長続きせず、普通の景気上昇と物価上昇の併存に変わって来る。
その転機が○四年であった。
GDPデフレーターは下落を続けていたが、総需要デフレーターは○四年度から上昇に転じた。
これがデフレ終焉の何よりの証拠である。
総需要デフレーターとGDPデフレーターの二つの動きがマイナスとプラスになって乖離しているのは、マイナス項目である輸入デフレーターが大きく上昇しているためである。
この変化は、各種の物価指数の動きにも現れている。
国内企業物価は○四年度から上昇に転じた。
全国消費者物価も三年遅れて○七年度から上昇に転じた。
それでもなおGDPデフレーターは、マイナス項目の輸入物価が大幅に上昇しているため、下落を続けている。
日本経済の「デフレ」は、○四年に終わったのである。
GDPデフレーターの下落に目を奪われ、まだデフレが続いていると考えていたのは大きな誤りであった。
この誤りが、超低金利政策を長引かせ、弱い円を生み出し、輸出に偏った弱い日本経済を作り出した。
マクロ的な需給状況もはっきり好転 「デフレ」が○四年に終わったことは、マクロ経済の需給指標でも確認出来る。
日銀「短観」の「国内での製商品・サービス需給判断」と、日銀が推計した実質GDPペースの需給ギャップ(実質GDPと潜在GDPの比率)を描いたグラフがある。
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